相談からわずか3ヶ月で開業できたオンリーワンの強みを引き出す創業支援とは?

mts make-up studio メイクアップアーティスト 吉田智美さん

 Seki-Bizには中小企業だけでなく、新たにビジネスを起こしたい人も多く訪れます。

 

 関市内にメイクアップスタジオ「mts make-up studio」をオープンした吉田智美さんもそのひとり。

 

seki-bizから与えられた“宿題”を必死にこなしながら、3ヶ月という短期間で「メイクの力で女性を笑顔にするスタジオを作りたい」という思いを形にしました。


石巻の女性に教えられた「メイクの力」


meet to smile。

「メイクアップの力でたくさんの笑顔に出会いたい」という願いが込めたメイクアップスタジオが、一昨日10月関市に誕生した。

 

立ち上げたのは、関市出身のメイクアップアーティスト・吉田智美さん。ニューヨークで映画のメイクを学び、現役のメイクアップアーティストでもある先生のアシスタントとして様々な現場を経験。

 

2006年に帰国し、東京を拠点にプロのメイクアップアーティストとしての活動をスタートした。

 

「帰国した当初はデパートでのイベントでメイクする仕事が多く、そこで一般の方へのメイクを多く経験しました。

 

今こうしてスタジオを構えてやっている中で、当時の経験はすごく糧になっていると感じています」

 

広告や雑誌、テレビなど活躍の場を少しずつ広げ、撮影全体のプロデュースも任されるなどキャリアを順調に重ねる一方で、雑誌の廃刊が相次ぎ、仕事の量や質の変化に危機感を感じるようになっていた。

 

「40、50歳と、どうすれば好きな仕事を続けていくことができるのだろう」と将来を考え始めていた頃。

 

2011年3月11日、日本は東日本大震災に見舞われた。

 

予定されていた撮影は全てストップ。

 

「生きるのに直接に必要のない仕事からキャンセルされるというか、メイクという仕事の無力さを痛感しました。

 

自分の仕事は人の役に立っているのだろうかと色々考えました」

 

もやもやとした気持ちを抱えていた、震災から半年ほど経ったある日。

 

知人から「石巻にメイクのボランティアにきてほしい」と声をかけられた。

 

「半年しか経っていないのに、メイクが必要なのかな?」と当初は乗り気ではなかったが、熱心な誘いを受けて地震の爪痕が生々しく残る石巻へと向かった。

 

津波により浸水し、ようやく復旧したという料亭の一室には、20名ほどの女性が集まっていた。

 

「スキンケアやメイクをさせていただいたのですが、私の不安はすぐに吹っ飛びました。

 

『震災から今まで、自分の顔や身なりをキレイにしようなんて考えなかったし、顔も洗ったか覚えてないくらいだった。

 

でも自分がキレイになった姿を見て、がんばろうと思えた』と本当に喜んでいただけて、こうしてメイクも人の力になれるんだなあと私の方が元気をもらいました。

 

メイクは無意味な仕事だと沈んでいた気持ちが、さっと晴れましたね」。

 

メイクで変わった自分を見て、心持ちや行動が変化する。

 

そんな女性たちの姿を目の当たりにして、「世の中の女性がキレイに、元気になることで、町が活性したり、大げさですけど、日本が元気になることにも繋がるのかなって。

 

微力ながら、そういうことをやっていけたら」。

 

気持ちが定まった吉田さんは、早速東京でメイクレッスンを開始。2016年に故郷である関市に活動の拠点を移した。


相談からわずか3ヶ月でスタジオをオープン


「では、起業しましょう」「えっ?私、起業するんですか」

初めて訪れたSeki-Bizで発せられた言葉に吉田さんは驚いた。

 

Seki-Bizを知ったのは関に戻って間もなくの頃だった。

 

地元の青年会議所でSeki-Bizの「開設記念シンポジウム」が開催されることを聞いた。

 

「ビジネスサポートセンターって何だろう?」と何の知識もないまま、「色々なお店の人が行くみたいだから、私も行ってみよう」と軽い気持ちでシンポジウムに参加。

 

半月後の8月上旬、初めて個別相談に足を運んだ。

 

「自宅の倉庫を改装し、そこでメイクレッスンをしたい」という思いを聞いたSeki-Bizは最初「関市でメイクは難しいかもしれない。

都市部の方がよいのでは」と感じた。

 

しかし吉田さんのキャリアやメイクレッスンへの思いなどを聞き進めるうち、「吉田さんのオンリーワンのキャリア、メイクへの情熱、そしてパワフルな行動力があれば成功できると確信した」


 10月末の大安の日にスタジオをオープンすることを決め、そこからは急ピッチで準備を進めた。

 

「のんびりした性格なので、日にちを設定してもらったことは良かったです。

 

これまでの人生でこんなに猛ダッシュで何かをしたことはなかったので、あの時の記憶があまりないんですが…」

 

と怒濤の3ヶ月をゆっくりと振り返る。

 

「『まずは経歴をまとめてきてください』とか、『コンセプトを決めましょう』とか。

 

毎回Seki-Bizから出される宿題が楽しみでした」と吉田さんは語る。

 

最も時間をかけたのは店名を決めたときだ。

 

「私はあまり深く考えていなかったのですが、『ここはしっかり考えましょう。思いを入れなきゃダメです』と言われて。

 

何をしたくてスタジオを始めるのか、名前を考える中でスタジオの目的が明確になり、仕事に対するモチベーションが変わりましたね。

 

meet to smile。

 

メイクには笑顔になってもらう力がある。

 

メイクをすることで笑顔になった人が、さらにその先に笑顔を作っていく。

 

そういう連鎖が生まれるといいなという願いを”mts”に込めました」。


 さらに「Seki-Bizで話をするうちに、自分のキャリアに自信を持てるようになりました」と吉田さんは続ける。

 

「私自身は、当たり前にメイクの仕事を続けてきただけで、特別なことをしてきた感覚はなかったんです。

 

でもSeki-Bizで、『吉田さんにとっては普通かもしれませんが、関市やこの周辺にこれだけのキャリアを持った人はいません。ニューヨークでの経験などももっと打ち出した方がいいですよ』と自分の強みを見いだしてもらい、そこを自信にしていいんだと気づかされましたね。

 

これまで“点”でやってきたことが、実はこのスタジオにすべて繋がっているということも分かりました。

 

こうして取材を受ける時にも、ストーリーを話せることの大切さもSeki-Bizに教えていただいたきました」


ゆっくりと、関のまちに笑顔を広める


オープンして1年半。

 

吉田さんの朗らかな人柄や「なりたい“印象”を作り出す」高いメイクテクニックが評判となり、関だけでなく、大垣、揖斐、多治見、郡上などからも定期的に通う女性が増えている。

 

 開業直後から多くの予約を獲得できたのは、「ホームページの存在が大きかった」と吉田さん。

 

「ほとんどのお客さまがホームページ経由です。

 

Seki-Bizに行かなければ、ホームページを自分で作ることもなかった思いますし、とても勉強になりました。

 

『メイクを楽しみたいとか、メイクで悩んでいる方に来てほしい』というこちらの思いをしっかり書いたことで、期待した通りのお客さまに来ていただけています。

 

初めてメイクをする方から年配の方まで、色々な方に出会えるのが楽しいです」。

 

 今でも月に1度はSeki-Bizに足を運ぶ。

 

「行くたびに、新しい企画を考えたいなと刺激を受けたり、他にもがんばってる事業者さんがいることを知り、自分もがんばりたいと思います」

 

 Seki-Bizが開設されてから、町が変化しつつあると肌で感じていると吉田さんは加える。

 

「今までは『あまり景気が良くないね』という会話の方が目立っていたのですが、色々な人との会話の中で『Seki-Biz』という言葉を聞くことが増えてきました。

 

みんながちょっとワクワクしている雰囲気を感じています。関市全体でみんなが楽しくなればいいですね」

 

吉田さんのスタジオからは笑顔が、Seki-Bizからはワクワクの連鎖が少しずつ生まれている。


ライター:山田 智子