漁業用刃物をお金をかけずに新分野に導いた着眼点とは?

株式会社関菊水刃物 吉田浩淳さん

「海から陸へ!」

 

下町の中小企業を舞台にした人気ドラマを地でいくような、培ってきたものづくりの知見で新たなフィールドに挑戦し、大きな成果を上げている会社がある。


1961年に関市で創業した関菊水刃物。創業まもなく製造を始めたダイバーナイフは、世界中のダイバーに愛され、アメリカやオーストラリアなどの軍隊でも使用される信頼のブランドだ。

 

80年代からは、ダイバーナイフが漁業従事者の中で人気になっていることを知り、漁業分野へ進出。海水や太陽にさらされて硬くなったロープを切断したり、海藻の収穫や、船底の貝殻を除去するなど、厳しい環境下で使用が求められる漁業用刃物において、菊水の刃物は切れ味が鋭く、軽くて錆びないと信頼を集めている。

 

しかし近年、漁業自体が後退し、漁業用刃物の需要は徐々に減少している。「このままではまずいな」と危機感を感じていた頃、社長の吉田浩淳さんは「色々な人からいい評判を聞いていた」セキビズを頼ることにした。


農家の生の声を取り入れた、農業用の収穫鎌


セキビズではヒアリングを大切にする。

 

初回の相談で、サトウキビ農家を兼業する沖縄の漁師から、「漁業用のロープナイフを使ってみたら、コンバインに絡まったサトウキビがよく切れた。農業用に売り出してほしい」という一本の電話を受けた話に着目。

 

セキビズは、農業分野への展開の可能性を見出し、現状の農業向け刃物をリサーチする。相談者で、ブルーベリーや野菜の栽培をしている下呂市の田上農園で実際に鎌を使用してもらうことにした。

 

農園でのユーザーリサーチで好評価に手応えを得たセキビズは、農業用刃物販売に向けて本格的に着手。引き続き、田上農園のサポートを受けて、農業用の収穫鎌の開発を進めた。


「普通なら会えない農家の方を紹介してもらって、本当にありがたかったですね。わかめやロープも、サトウキビや野菜も切れる。漁業でも農業でも使えるようにするにはどうしたらいいか。刃の形状を数パターン作り、農園で使ってもらいながら意見を聞いて試行錯誤を重ねました。『先まで刃をつけた方が引っかかって使いやすい』『野菜の汁がつくので、それを逃がせるような形状がよい』など、ちょっとしたことなんですが、そこがとても重要なんです」と吉田社長。


漁業分野で熱い支持を受ける「ロープカッター 鎌型」の「特殊波刃」をベースに、農園スタッフの意見を取り入れ、野菜をしっかりホールドできるよう先端に鍵のようなフックをつけた。

 

圧倒的な切れ味と錆びにくさはそのままに、農作業のために考え抜かれた鎌は「根っこを切るのにも便利で、切った断面も美しく見栄えが良い。もう他の鎌は使えません」と田上農園も太鼓判。

 

2017年10月、1年以上の歳月をかけて「やっとの思いで」試作品が完成した。


出来たばかりの試作品を「岐阜県関市刃物まつり」で販売したところ、なんと1日200本も売れるほどの大人気に。

 

「まだ新聞にも出ていない頃でしたが、飛ぶように売れてビックリしました。黒山の人だかりになって、会社から追加の商品を持ってきても、またすぐに売り切れてしまうような状況でした。それを見て、これは絶対に売れるなと自信になりましたね」。

 

2018年3月、満を持して「万能収穫鎌」を発売。新聞4誌に掲載されたこともあと押しとなり、順調に売り上げを伸ばしている。

 

「新聞を見た富加町のおばあちゃんが直接買いにきてくれました。ちょうどタケノコの時期で、『この鎌で切ったらスパッっと切れてうれしかった』と、翌朝茹でたタケノコをわざわざ持ってきてくれたんですよ」と吉田社長は満面の笑みを浮かべる。


第2弾の「万能収穫ハサミ」は園芸用にも展開


第2弾として開発された「万能収穫ハサミ」も「今までの約1.5~2倍のスピードで作業を進めることができる」と大好評だ。

 

「普通のはさみ使って1日中作業をすると、腕がパンパンになって上がらないくらい痛い」という田上農園の女性たちの苦痛を軽減するため、強力なバネの力で刃が自然に閉じるように設計した。


またセキビズでは、商品の改良と並行して、ネーミングやパッケージなどもワンストップで提案した。

 

これまで各国の軍隊や漁業従事者など“達人”のための刃物を製造してきた同社が手掛ける収穫に特化した刃物を「達人の収穫シリーズ」というネーミングに集約。ホームセンターなど小売店での販売を見越して、売場で目を惹き、用途が伝わりやすいパッケージへ変更した。

 

さらに、ガーデニングでの需要も考え、万能ハサミのバリエーションとして、フラワーアレンジ、家庭菜園に使える「花きはさみ」への展開もアドバイスした。


※左は旧パッケージ。緑を黄色したことで、商品名が際立ち、プロフェッショナル感が強くなった。ガーデニング向けの「花きはさみ」はよりやわらかい印象のパッケージに。


アイデアのタネを一緒に育てる


「達人の収穫シリーズ」は順調に売り上げを伸ばし、当初の目標を達成した吉田社長だが、今も月に一度定期的にセキビズを訪れている。

 

「僕の目標はこれで終わりじゃない。ラインナップももっと増やしていきたいし、これからも経営方針にもあるように他者にはない“サムシンググレイト”なものを作っていきたい」。

 

現在は農業分野に加え、防災グッズとしての展開も模索中だ。実はこの防災グッズのアイデアはちょっとした雑談の中から生まれたという。

 

「2018年7月の西日本豪雨災害の時に、知り合いのプラスチック会社からポリエチレン樹脂が流失し、その回収のために鎌を提供させていただきました。『樹木に絡まった樹脂も枝ごと切れて作業がはかどった』と喜んでもらえた話をセキビズでしたところ、防災グッズとしても展開できるのではとご提案いただきました」

 

聞けば、2011年の東日本大震災の際にがれきの撤去作業にあたる自衛隊も同社の「両刃ロープカッター」を使っていたそうだ。


「現状報告や雑談をしているだけで、セキビズさんが色々なアイデアへと繋いでくださる。上手に乗せられてしまうんです」と楽しそうに笑う吉田社長。

 

「色々なタネをまいて、失敗があっても、その中の一つでも大きく育てばいいなと思っています」


ライター:山田 智子